障害年金-社会保険審査会裁決例

平成24年(厚)第100号  平成24年11月30日裁決

             主      文
厚生労働大臣が、平成〇年〇月〇日付で、請求人に対してした後記第2の2記載の原処分を取り消す。

             理      由
第1 再審査請求の趣旨
再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、国民年金法(以下「国年法」という。)による障害基礎年金及び厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)による障害厚生年金(以下、併せて「障害給付」という。)の支給を求める、ということである。
第2 再審査請求の経過
1 請求人は、網膜色素変性症(以下「当該傷病」という。)により障害の状態にあるとして、平成〇年〇月〇日(受付)、厚生労働大臣に対し、事後重症による請求として障害給付の裁定を請求した。なお、裁定請求書には、当該傷病に係る初診日として「平成〇年〇月〇日」と記載されている。
2 厚生労働大臣は、平成〇年〇月〇日付で、「障害厚生年金を受給するためには、傷病の発病日・初診日が厚生年金保険の被保険者であった間であることが要件の1つとなっていますが、現在提出されている書類では、当該請求にかかる傷病(網膜色素変性症)の発病日もしくは初診日が厚生年金保険の被保険者であった間であることを確認することができないため。」との理由により、請求人に対し、障害給付の裁定請求を却下する旨の処分(以下「原処分」という。)をした。
3 請求人は、原処分を不服とし、〇〇〇〇厚生局社会保険審査官(以下「審査官」という。)に対する審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした。
第3 問題点
1 障害厚生年金が支給されるためには、障害の原因となった傷病(その障害の直接の原因となった傷病が他の傷病に起因する場合は当該他の傷病。以下同じ。)につき初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)において厚生年金保険の被保険者であり(以下、この要件を、便宜上「厚年被保険者要件」という。)、その初診日の前日において所定の保険料納付要件を満たした上で、障害の原因となった傷病による障害の状態が、厚年法施行令(以下「厚年令」という。)別表第1に定める3級の程度に該当する場合には、3級の障害厚生年金が、また、国年法施行令(以下「国年令」という。)別表に定める1級及び2級の程度に該当する場合には、それぞれ1級及び2級の障害厚生年金が支給されることになっており、2級以上の障害厚生年金が支給される者には、併せて障害基礎年金が支給されることになっている(厚年法第47条、第47条の2及び国年法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)附則第64条第1項参照)。
2 本件の場合、原処分は、上記第2の2に記した理由により、本件裁定請求を却下しているところ、請求人は、請求人の当該傷病に係る初診日(以下「本件初診日」という。)は、請求人の厚生年金保険の被保険者期間中であった間にある旨主張しているのであるから、本件の問題点は、まずは、本件初診日がいつかであり、次いで、その初診日において請求人が厚年被保険者要件を満たしているかどうかである。
第4 審査資料
「(略)」
第5 事実の認定及び判断
1 「略」
2 上記認定の事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
⑴ 本件初診日について判断する。
ア 国年法及び厚年法上の障害の程度を認定するためのより具体的な基準として、社会保険庁により発出され、同庁の廃止後は厚生労働省の発出したものとみなされて、引き続きその効力を有するものとされ、当審査会も、障害の認定及び給付の公平を期するための尺度としてそれに依拠するのが相当であると考える「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」は、「第1 一般的事項」の「3 初診日」で、「初診日」とは、「障害の原因となった傷病につき、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日をいう。」としているところ、障害の原因となった傷病の前に、相当因果関係があると認められる傷病があるときは、最初の傷病の初診日が初診日となると解するのが相当である。
イ 本件についてこれをみると、請求人は、昭和〇年〇月ころから平成〇年〇月ころまでa病院を受診した旨申し立てているが、請求人が、昭和〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日まで同病院のb科を受診していたことは認められるが、当時の傷病名や病状、治療内容等は確認できないのであるから、上記期間内に本件初診日があったと認定することはできない。そして、請求人は、平成〇年〇月〇日にc病院を受診した日をもって本件初診日と主張していると解されるところ、請求人はそれより前の平成〇年〇月〇日にd病院を受診して、当該傷病と診断されているのであるから、上記イ記載の請求人の申立てる初診日は認定することができず、平成〇年〇月〇日よりも前に初診日があることは認められない本件においては、この平成〇年〇月〇日をもって本件初診日と認定するのが相当である。
ウ 本件初診日を平成〇年〇月〇日とした上で、厚年被保険者要件についてみると、本件記録によれば、本件初診日である平成〇年〇月〇日が請求人の厚生年金保険の被保険者期間中でないことが明らかであるから、本件初診日において、請求人は厚年被保険者要件を満たしていないことになる。そして、請求人は、本件初診日においては、国年法の規定に基づく国民年金の被保険者であったことになり、同法等の関係法令の規定する要件を満たせば障害基礎年金を受給し得ることになるが、本件初診日は請求人(昭和〇年〇月〇日生まれ)が20歳に達した日後であることは明らかであるところ、20歳に達した日後に初診日のある傷病による障害について障害基礎年金を受給するためには、その要件の1つとして、初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり、かつ、① 当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上であるか、又は、② 当該初診日の属する月の前々月までの1年間が保険料納付済期間と保険料免除期間で満たされていることが必要とされている(以下、この①②の要件を「保険料納付要件」という。)(国年法第30条第1項、第30条の2第1項・第2項、国年法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)附則第20条第1項参照)。
本件記録によると、本件初診日の属する月の前々月(平成〇年〇月)までの請求人の被保険者期間は、20歳に達した昭和〇年〇月から平成〇年〇月までの〇〇〇月であるところ、本件初診日の前日において、保険料納付済期間は、国民年金の保険料納付済期間はなく、厚生年金保険の被保険者期間の〇〇〇月のみであるが、これは〇〇〇月の3分の2以上である。
したがって、請求人は、国年法の規定に基づく保険料納付要件を満たしていることになる。
⑵ 当該傷病の障害の程度について検討する。
ア 国年令別表は、障害等級2級の障害基礎年金が支給される障害の状態を定めているが、請求人の当該傷病による障害にかかわると認められるものとしては、「両眼の視力の和が0. 05以上0. 08以下のもの」(1号)及び「前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」(15号)が掲げられている。
イ 認定基準の第3第1章第1節/眼の障害によれば、眼の障害は、視力障害、視野障害、調節機能障害及び輻輳機能障害又はまぶたの欠損障害に区分するとされているところ、視力障害について、屈折異常のあるものについては、矯正視力を測定し、これにより認定し、矯正視力とは、眼科的に最も適正な常用し得る矯正眼鏡又はコンタクトレンズによって得られた視力をいい、両眼の視力は、両眼視によって累加された視力ではなく、それぞれの視力を別々に測定した数値であり、両眼の視力の和とはそれぞれの測定値を合算したものをいう、とされている。また、視野障害について、視野は、ゴールドマン視野計及び自動視野計又はこれらに準ずるものを用いて測定し、ゴールドマン視野計を用いる場合、中心視野の測定にはⅠ/2の視標を用い、周辺視野の測定にはⅠ/4の視標を用いる、それ以外の測定方法によるときは、これに相当する視標を用いることとする、とされ「身体の機能の障害が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」とは、両眼の視野が5度以内のものをいい、「両眼の視野が10度以内」又は「両眼の視野が5度以内」とは、それぞれの眼の視野が10度以内又は5度以内のものをいい、求心性視野狭窄の意味である、とされ、輪状暗点があるものについて中心の残存視野がそれぞれ10度以内又はそれぞれ5度以内のものを含む、とされている。そして、視力障害と視野障害が併存する場合には、併合認定の取扱いを行う、とされ、認定基準の第3第2章第2節/併合(加重)認定によれば、認定の対象となる2つの障害が併存する場合は、個々の障害について、併合判定参考表における該当番号を求めた後、当該番号に基づき併合(加重)認定表による併合番号を求め、障害の程度を認定する、とされている。
ウ 上記1の(1) で認定した本件障害の状態を前記認定基準に照らしてみると、視力の障害については、矯正視力が右眼0. 3、左眼0. 3とされているので、上記アの2級1号に該当しないことは明らかであり、両眼とも「一眼の視力が0. 6以下に減じたのもの」(併合判定参考表の13号)に相当する程度であると認められる。また、視野障害については、「Ⅰ-2は測定不能」とされているのであるから、それは、両眼の視野について、「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」(併合判定参考表の該当番号4号)に相当する程度であると認められる。
そして、上記の各番号に基づき、上記イ記載の認定の手法に従って、併合(加重)認定表による併合番号を求めると、両眼の視力障害の番号13号と番号13号の併合番号は12号であり、これと視野障害の番号4号との併合番号は4号となり、これは障害等級2級に該当すると認定するとされている。
⑶ 以上から、請求人には平成〇年〇月〇日を受給権発生日とする障害等級2級の障害基礎年金が支給されるべきであり、これと趣旨を異にする原処分は妥当ではなく、取り消されなければならない。
以上の理由によって、主文のとおり裁決する。

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